重そうとクエン酸で冷却パックを作る探求的な活動(2019年山口)
瞬間冷却パックの探求的活動
[9] AさんとBさんは、よく冷える瞬間冷却パック(簡易冷却パック)を身近な材料でつく
ろうと考え, 理科室でT先生と次の探究的な活動を行った。あとの(1)~(4)に答えなさい。
瞬間冷却パックの材料として,市販されているクエン酸と重そうを用意し,次の <仮説1>を検証するために,下の実験を行った。
<仮説1> クエン酸と重そうの質量の合計が大きいほど,温度がより低くなる。
【実験】
1 クエン酸 10gと重そう 10gをよく混ぜ,発泡ポリスチレンの容器に入れた。
2 図1のように,デジタル温度計を入れ,水100 cm³を加え, ガラス棒でかき混ぜながら, 10秒ごとに温度を記録した。温度が一定になっ ても,開始から6分間は測定を続けた。
3 1で混ぜる材料の質量を「クエン酸 20gと 重そう 20g」「クエン酸 30gと重そう 30g」にかえ て,1,2の操作を行った。
4 結果と考察を図2のようにまとめた。
【結果】
【考察】
クエン酸と重そうの質 量の合計が大きいほど, 最低温度が低くなってお り,<仮説1>は正しい といえる。
新たな実験 より冷える条件を見つける
次に,Aさんは,より冷える条件を見つけようと考え,次の<仮説2>をたてた。
<仮説2> クエン酸と重そうの質量の比によって,最低温度が変わる。
Aさんは,<仮説2>を検証するために,[実験の1で混ぜる材料の質量を表1 のようにかえ,[実験]の1,2の操作を行う計画をたてた。
PDCAサイクルを用いた思考
この問題では
P(Plan 計画)→D(Do実施)→C(Check検証)→A(Action改善し、次回につなぐ)
PDCAサイクルによって、大事なことは
計画を立てる能力
計画を実行できる能力
得られたデータを処理し活用できる能力
計画してみた実験が予測と反するときや計画に不備があるときにそれを見つけ、より良い方向に改善する能力
そして、これを繰り返し行うことで、発展したものにつなげる力
これが求められている。
冷却パックを作ろう
どんどん冷えて、気持ちよかった。
(おわり)
ではない。科学的思考力を養うというのは1回限りで終わってしまう単なる「面白かった」「楽しかった」ではない。
実験を行ってみて気づく疑問があったら、それを解決するためにはどのようなことを実施すればよいのかと考え、さらに探求を深める。これが科学的思考力である。
感情で流されるのではなく、それではどうするのか?というのが求められる力である。
この瞬間冷却パックの実験では、より冷えるものは質量を大きくしたものである。
という結果が得られたが、
重そう(炭酸水素ナトリウム)は水に溶けにくい物質である。
さらに、溶解度は一般に温度が低下するほど小さくなる。
この実験で加える量を多くすると飽和溶液になってしまって、もうこれ以上とけないから実験ができないということになる。
そこで、溶かす量を一定にし、重そうとクエン酸の比率を変えてみるという次の課題を見出した。
このようにして PDCAサイクルを回すわけである。
この実験に関する問い
(1) ヒトが瞬間冷却パックに触れて冷たいと感じるのは、冷たさを皮膚で受けとっているからである。皮膚などのように,外界からの刺激を受けとる体の部分を何というか。書きなさい。
山口県の試験では、このように、冷却パックの実験とは全く関係のないことを聞いてくる。関連性は全くない。
ここで、何を聞かれているのかをしっかり見つけること。
「外界からの刺激を受け取る体の部分」を聞いている
この答えとして、「皮膚」「冷点」というような答えをしたら不正解になる。
「皮膚などのように」と書いてあるのに答えが皮膚というのはおかしい。(個の間違いをする生徒は多い)
皮膚で感じる感覚には、触覚、圧覚、痛覚、冷覚、温覚などがあります。
ここで、問題が、
「皮膚では、刺激をどのような感覚で受け取っているか」
というものならば、冷覚という感覚名で答える。
また、
「皮膚では、冷たさを感じるところは何か。」
と冷たさ限定で聞かれている場合、感覚を受け取るところが、触覚なら「触点」、圧覚なら「圧点」痛覚なら「痛点」冷たさなら「冷点」温かさなら「温点」がある。
このなかで、冷たさを感じるのだから。「冷点」となる。
しかし、問題は「皮膚などのように」であるから、皮膚に存在する感覚名や間隔を感じる場所を答えるものではない。
ここでは、「下界から刺激を受ける体の部分」であるから
感覚器官と答える。
中学レベルでは皮膚で感じる間隔は「触覚」と答えるのが多い。
感覚器官と感覚名
目 視覚
耳 聴覚
鼻 嗅覚
口 味覚
皮膚 触覚
の5感は覚えること。
実験器具の説明
(2) [実験] の1において、発泡ポリスチレンの容器を用いたのはなぜか。「熱」という語
を用いて,簡潔に述べなさい。
この実験の目的は「加えた薬品によってどれだけ温度が下がるかを調べる」
温度変化を調べるときに、発熱反応では熱が逃げないように発泡ポリスチレンの容器を使う。
今回は吸熱反応である。吸熱反応では外気温よりも温度が下がるが、外気温によって温められては実験はうまくいかない。
そこで、
外との熱の出入りを防ぐ必要がある。
容器の外側から内側に熱が伝わるのを防ぐため
このように電熱線を使って、水の温度上昇を調べる実験では、容器の内側から外側に熱が伝わるのを防いだが、それとは逆であるということを示すこと。
比熱の実験でナット焼きというものがある。
http://kusudahome.on.coocan.jp/JKEN/buturi/natto.htm
このとき、温度上昇を正確に測定するには、熱が逃げないようなものにする必要がある。比熱を詳しく求めるには、高校の物理基礎で学習する。
グラフから判断する
(3) 次の文が,図2のグラフが示す温度変化を説明したものとなるように,( )の中のa~d の語句について,最も適切な組み合わせを,下の1~4から選び,記号で答え なさい。
クエン酸と重そうの質量の合計が大きいほど,最低温度になるまでの時間は (a 短い b 長い )が,クエン酸と重そうの質量の合計を変えても, (c 13°C_d 18°C )になるまでにかかる時間はほぼ同じである。
クエン酸10gと重そう10g、質量の合計20gの場合、温度一定になるまで1分
クエン酸20gと重そう20g、質量の合計40gの場合、温度一定になるまで2分
クエン酸30gと重そう30g、質量の合計60gの場合、温度一定になるまで3分
質量の合計が大きいほど温度一定になるまでの時間は長くなる
グラフから最初の25℃から18℃まではどの組み合わせでも同じように温度が低下し、20秒ほどで一気に温度が低下する。
18℃よりも下がるときに質量によって変わる。
1 aとc
2 aとd
3 bとc
4 bとd
bdのくみあわせの4が答えになる。
(4) Bさんは,A さんがたてた表1の計画に対して疑問をもち,A さんやT先生と, 次のような会話をした。
Bさん: Aさんの計画では,各回で、クエン酸と重そうの質量の(あ ) ため,クエン酸と重そうの質量の比の違いが,最低温度にどのように影響するか を調べることはできないと思います。
T先生: そうだね。変化させる条件を1つだけにすることが必要ですね。
Bさん: Aさん,実験の考察を振り返って,一緒に計画をたて直してみようよ。
Aさん: はい。仮説2を正しく検証できるように,混ぜる材料の質量を設定し直してみるよ。
Aさんは, BさんやT先生との会話にもとづいて, <仮説 2>を正しく検証できるように, [実験]の1で混ぜる材料の質量を表2のように設定し直した。
図2の【考察】をふまえ(あ ) に適切な語句を書きなさい。また, a ~dに あてはまる数値をそれぞれ求めなさい。
図2の結果では質量全体の合計が大きくなるほど温度が低下することが分かった、
表1では
1回目の質量の合計がクエン酸30g+重そう60g=90g
2回目の質量の合計がクエン酸30g+重そう30g=60g
3回目の質量の合計がクエン酸30g+重そう15g=45g
ということで、1回目が質量が大きく2回目、3回目とどんどん小さくなっている、
これでは、比を変えて温度が低下したのか
質量が変化したため温度が低下したのかがわからない
実験では、1つだけ条件を変えて他の条件は同じにする必要がある。
今回、「質量比を変える」というのが目的なのだから、「質量全体の合計が同じにする必要がある」これについて(あ)のように指摘したのだから(あ)に当てはまるのは
「合計が異なる」
表2の2回目の計画から質量の合計はクエン酸30g+重曹30g=60g
一回目は クエン酸:重そう=1:2より、質量60gのがクエン酸の質量
残りが重そうである、 重そうの質量=60-20=40g
三回目は クエン酸:重そう=2:1より、
質量60gのがクエン酸の質量
残りが重そうである、 重そうの質量=60-40=20g
一回目と三回目は1:2が2:1となっているので質量の比が逆になっているというのを見抜けば、1回の計算で二つの値を出すことができる。
a 20g
b 40g
c 40g
d 20g
高校レベルへの発展
中学レベルでは吸熱反応と質量の関係は行わない。
高校では、水に溶かすときに発生する熱を溶解熱といい、この溶解熱は物質の個数に比例することを学習する。さらに、
溶解熱の文献値を使う
溶解熱は物質によって異なる。
重そう -17kJ/mol(吸熱)
クエン酸 -11kJ/mol(吸熱)
重そうの式量 84
クエン酸の分子量 192
式量、分子量というのは物質1個の質量のことである。
この個数のことを 物質量といい、単位をmol で表す。
質量の合計が大きいほど温度低下が大きいか?
これをもとに最初の実験から溶解熱はどれだけあったのかを求める。
1回目重曹10gの個数は
これに、個数当たりの溶解熱をかけると
同様にクエン酸の溶解熱を求めると
=0.57kJ
これから、同じ質量でも重そうの溶解熱はクエン酸のの温度低下がある。
二つの合計は2.0+0.57=2.57kJ
これが2回目では2倍になるので
これが3回目では3倍になるので
すべて吸熱なので、全体の質量が大きい3回目が一番温度低下が大きくなる。
どの比が一番温度が下がるか?
これに対して比で考えた時はどうなるか。
1回目
重そう20gの溶解熱は
クエン酸40gの溶解熱は
合わせると、
2回目
重そう30gの溶解熱は
クエン酸30gの溶解熱は
合わせると、
3回目
重そう40gの溶解熱は
クエン酸20gの溶解熱は
合わせると、
となり、重そうの割合を大きくするほど、温度が低下する。
重そうの割合が大きいほど下がるのか?
では重そうだけ用いた冷却剤が一番温度が下がるのかというと下がらない。
なぜなら、重そうの25℃での溶解度は10.82gであり、多量に溶かせないからである。
多量に溶けないはずの重そうをなぜこの実験では溶かすことができたのか
それは、クエン酸と化学反応をして、二酸化炭素とクエン酸ナトリウムと水が生成するという化学反応が起きているためである。
この化学反応が起きて、クエン酸ナトリウムと二酸化炭素が水に溶ける
クエン酸ナトリウムの溶解度は77gと重そうに比べて7倍である。
クエン酸の溶解度は59gである。
ここで
の反応は
重そう:クエン酸=1:2の質量比で反応する
1回目の
重そう20gとクエン酸40gはちょうど1:2なのですべてクエン酸ナトリウムになる
しかし、2回目の
重そう30g、クエン酸30gでは
重そうはクエン酸に対して半分の質量の15gしか反応しないため、重そうが15gのこる。
重そうの溶解度が11gより重そうは4gとけきらなくなる。
3回目の
重そう40g クエン酸20g
重そうは同じく30gのこり、このうちとけるのが10gとすると、20gが残るとする。
このようにして考えると、重そうが溶け残ることを考えると、この実験計画では水に溶かしたことによりどれだけ冷えるかということは溶け切らないので比較できないわけである。
比較するためには重そうの溶解度よりも小さい量で比を変えて行わなければならない
というように、PDCAサイクルがまた一つ完成するのである。
どんな実験を計画する必要があるか
重そう、クエン酸、クエン酸ナトリウム、二酸化炭素の吸熱について調べる
重そうとクエン酸の反応の質量比を調べる