蒸散の実験で仮説を立てて、実験計画を立て実験を行う(2018年宮崎)
- 蒸散の実験の計画(2018年宮崎)
- 「ワセリンを葉の表」「ワセリンを葉の裏」「ワセリンを葉の表と裏」「ワセリンを植物全体」「水だけ」
- 「葉の表にワセリン」「葉の裏にワセリン」「何も塗らない」という組み合わせ
- 「ワセリンを葉の表」「ワセリンを葉の裏」「ワセリンを葉の両面」「なにもぬらない」「茎だけ」
- 「ワセリンを葉の表」「ワセリンを葉の裏」「ワセリンを葉の表と裏」「茎だけ」「水だけ」2020年佐賀県
- 単子葉類と双子葉類での蒸散の違い(2020年石川)
- この実験から考えること
蒸散の実験の計画(2018年宮崎)
【実験計画」
【目的】 植物の体から水が水蒸気になって出ていく量は,葉の表と葉の裏では,どちらが多いかを調べる。
【仮説】 日光によく当たる葉の表の方が,葉の裏より,水が水蒸気になって出ていく量が多いだろう。
【方法】
1 葉の枚数や大きさ,茎の長さや太さがほぼ等しいホウセンカの枝A,Bを準備し,枝Aにはすべての 葉の表側にワセリンをぬり,枝Bにはすべての葉の裏側にワセリンをぬる。
2 図IIのように,同じ体積の水を入れたメスシリンダー2本にそれぞれの枝をさし,少量の油を注ぐ。
3 明るく風通しのよい所にしばらくおいて,それぞれのメスシリンダーにおける水の減少量を測定する。
この問題のように最近の問題は、実験の前に仮説を立て、仮説が正しいならどのような結果になるかを予想して実験をするというのが多くなっている。
ここでは、蒸散はどこで行われるかということで、葉の表から行われるという仮説の下で実験計画を立てている。
この計画では、どのような結果になるか?
Aは表側にワセリンを塗るということだから 葉の裏と茎から蒸散している
Bは裏側にワセリンを塗るということだから、葉の表と茎から蒸散している
表からの蒸散が多いという仮説だからBの方が多く蒸散するはずである。
宮崎県の問題では、この仮説が正しくなるには「枝Aの方が枝Bよりも」の書き出しで説明しなさい。という問題になっているので、
枝Aの方が枝Bよりも水の減少量が少ない。
というように、答えなくてはいけない。
枝Bの方が枝Aよりも水の減少量が多いと答えたくなってしまうけれど、指定されている言葉を使うと「裏側の方が少ない」という言葉になる。これはひっかけ問題である。
そして、この実験ではAもBも枝からの蒸散量を一緒に測定してしまっている。これでは葉の表側、裏側の蒸散量の大きさだけを比較していることにはならない。ということで、次のような問題がある。
葉の表だけ,葉の裏だけから, それぞれ何cm³の水が水蒸気になって出ていくかがわかる実験にするためには【方法】の2と同じ体積の水を入れた メスシリンダーと,枝A,Bと葉の枚数や大きさ,茎の長さや太さがほぼ等しい ホウセンカの枝Cを準備して,枝A,Bとの水の減少量を比べようと考えた。枝C はどのような条件にすればよいか。最も適切なものを,次のア~エから1つ選び, 記号で答えなさい。
ア メスシリンダーに油を注がず,枝Cにはワセリンをぬらない。
イ メスシリンダーに油を注がず,枝Cの葉の表側と裏側,茎にワセリンをぬる。
ウ メスシリンダーに少量の油を注ぎ,枝Cにはワセリンをぬらない。
エ メスシリンダーに少量の油を注ぎ, 枝Cの葉の表側と裏側, 茎にワセリンをぬる。
枝だけの蒸散量を調べる。を選ぶのに、
メスシリンダーに油を注ぐか、注がないかの選択肢がある。
この実験で、メスシリンダーに油を注ぐ意味を知っているかというのが出題されている
油を注ぐのは「メスシリンダーからの水の蒸発を防ぐため」である。
AとBと同じ条件で枝の蒸散量を調べる
A、Bともにメスシリンダーに油を注いでいるからCも同じ条件にしなくてはいけない。そして、枝だけの蒸散量を調べるために葉の表と裏の両方にワセリンを塗る。
- 油を注ぐ
- 葉の表と裏にワセリン
この二つが入っているエを選ぶ。
この実験計画のもとに実験をした問題も数多く出題されている。
2017年愛媛の問題は葉の両面に塗られたバージョンである。
A 葉の裏と表にワセリン
B 葉の裏にワセリン
C 葉の表にワセリン
そして、表1のような結果が得られている。
水面に油を少量注ぐという操作を行わずに実験を行うと,水の減少量は,表1の結果と比べてどのようになるか。「大きくなる」, 「小さくなる」, 「変わらない」のいずれかの言葉を書け。また,そのよう になる理由を,簡単に書け。
このように、水面からの水の蒸発を防ぐためということだけでなく、入れないとどうなってしまうのかを予測することも必要である。
入れなければ、水は蒸発してしまうのだから、実験よりも水は多く減ることになる。
減少量は大きくなる
この二つを答えに書かなければいけない
水面から水が蒸発してしまうため、水の減少量は表1の結果と比べて大きくなる。
実験とほぼ同じアジサイの枝を1本用意し, ワセリンをぬらないで,この実験と同じ方法で1時間置くと,1時間の水の減少量は何gになるか。表1の値を用いて計算せよ。ただし,アジサイの茎からの蒸散による水の減少量は,表1のCの値とする。
A・・・葉の裏と茎
B・・・葉の表と茎
C・・・茎
葉の裏 AーC
葉の表 B-C
茎 C
何も塗らない 葉の裏+葉の表+茎=A-C+B-C+C=A+BーC
4.7+2.5ー1.1=6.1cm³
このパターンの問題(表、裏、両面)は2021年の和歌山県に出題された。(動画解説)
「ワセリンを葉の表」「ワセリンを葉の裏」「ワセリンを葉の表と裏」「ワセリンを植物全体」「水だけ」
2021年千葉県(葉の裏側の蒸散量を求めなさい)動画解説
「葉の表にワセリン」「葉の裏にワセリン」「何も塗らない」という組み合わせ
2021年愛知県A日程(裏は表の何倍の給水量か、茎の給水量はいくらか)動画解説
2021年栃木県(「葉の表」「葉以外の蒸散量」を求めなさい、暗所と明所での蒸散量の変化はどのようになるか)動画解説
2021年茨城(仮説が間違っている理由を答えなさい、茎の蒸散量答えなさい)動画解説
「ワセリンを葉の表」「ワセリンを葉の裏」「ワセリンを葉の両面」「なにもぬらない」「茎だけ」
2021年福島(水の吸水が行われるのはなぜか)動画解説
「ワセリンを葉の表」「ワセリンを葉の裏」「ワセリンを葉の表と裏」「茎だけ」「水だけ」2020年佐賀県
上の図のようにワセリンを葉に塗ったものと、葉を取り除いてその切り口に塗ったものを用意したDと同じ結果になるのは、どこにワセリンを塗ったものか。
A すべての葉の表と裏側
B すべての葉の表と茎
C すべての葉の裏と茎
D すべての葉の表と裏と茎
このように葉のどこに塗るかだけで様々な問題を出題することができる。
単子葉類と双子葉類での蒸散の違い(2020年石川)
この蒸散の実験のポイントは
- 植物の蒸散は葉の裏側で多く行われている。
- 植物の蒸散は葉以外でも行われている。
- 蒸散は光が当たると多く行われる
- 蒸散は気孔を通して行われる
ということで、多くはアジサイ、ホウセンカといった双子葉類を用いる
愛知県と千葉県はツユクサを用いているが、ツユクサのような単子葉類でも同じ結論になっている。
しかし、双子葉類と単子葉類とで蒸散量の違いはあるのかという出題もある。
【実験] 葉の数や大きさなどがほぼ同じ3本のアジサイ A.B.C を用意した。また、葉の数や大きさなどがほぼ同じ3本のトウモロコシD, E,F を用意した。A,Dは葉の表側に、B.Eは葉の裏側にワセリン をぬり、C、Fは葉の表側にも裏側にもワセリンをぬらなかった。次 に6本のメスシリンダーを用意し、それぞれのメスシリンダーに同量 の水を入れて、A~Fを1本ずつさした後、少量の油を注ぎ、図3 のような実験装置を6つ準備した。
それぞれの実験装置の質量を測定した後、明るいところに置いた。 4時間後にそれぞれの実験装置の質量を調べ、実験装置の質量の減少 量を求めたところ、表のような結果になった。 なお、ワセリンは蒸散を防ぐために使用した。
この実験では、それぞれ次の蒸散量を調べている
アジサイ(双子葉類)
A 葉の裏と茎 3.0
B 葉の表と茎 1.8
C 葉の表と裏と茎 5.1
ここから 葉の表の蒸散量 C-A 5.1-3.0=2.1
葉の裏の蒸散量 CーB 5.1‐1.8=3.3
茎の蒸散量 C-{(C-A)+(C-B)}
C-(2C-A-B)=A+B-C
3.0+1.8ー5.1=-0.3
茎からの蒸散量がマイナスの値、ここでは茎は空気中に水蒸気を出すのではなく、空気中から水を取り入れていることになる。
これはABCは同じ蒸散能力のあるアジサイという前提の下で実験しているが、その前提自体が間違っているということになる。
この実験結果から茎の蒸散量は計算では求められない。
これが入試問題に出ていていいのか?
と思いつつ、
トウモロコシの方の結果も見る
D 葉の裏と茎 2.0
E 葉の表と茎 1.8
F 葉の表と裏と茎 3.9
葉の表の蒸散量 FーD 3.9-2.0=1.9
葉の裏の蒸散量 FーE 3.9-1.8=2.1
茎の蒸散量 Fー{(FーD)+(FーE)}
D+E-F=2.0+1.8-3.9=-0.1
ここでも茎の蒸散量はマイナスになっている。
これでは、それぞれの蒸散量を求める問題が出ても応えられない。
では2020年の石川県ではどのような出題をされたのか見てみよう
(1) 水面に油を注いだのはなぜか、理由を書きなさい。
これは実験操作についての出題である。答えは、
水面からの水の蒸発を防ぐため
定番の問題である。
(2)アジサイとトウモロコシの葉のつくりの違いについて,どのようなことがわかるか、実験結果をもとに書きなさい。
この、蒸散に関する出題はこれだけである。水の量を求めなさいという出題はない。
葉の裏、葉の表、茎の蒸散量をそれぞれ求めるという問題ではないのである。
そして、「実験結果をもとに答えなさい」なので、茎からの蒸散量が計算では求められなくても、この場合は問題がない
アジサイでは 計算結果から 葉の表 2.1 葉の裏 3.3 茎 -0.3 全体 5.1
トウモロコシでは 計算結果から 葉の表 1.9 葉の裏 2.1 茎 -0.1 全体 3.9
このことから
アジサイでは葉の表側よりも葉の裏側の方が蒸散量が多いという結果から、気孔が葉の表側よりも裏側の方が多い。トウモロコシでは葉の表側と葉の裏側の蒸散量がほぼ同じという結果から、気孔が葉の表側も裏側もほぼ同数であるということ。
これが結果として考えられる。しかし、A、B、CとD,E、Fが本当に同じ蒸散能力がある個体なのか。
トウモロコシの蒸散結果である 葉の裏2.1 葉の表1.9 には差が0.2であるがこの0.2の差を無視してほぼ同量の蒸散量として処理していいのか
疑問の残る問題である。
しかし、「実験結果からもとめなさい」とあるので、この実験結果からではこのようなことしか考えられないだろう。
すこし、歯切れの悪い答えが出てしまう問題である。
この実験から考えること
この実験を実際に実験室で行ったらこんなにうまくいくとは思えない。それは個体差があるからである。
蒸散能力が同じでもワセリンを塗ったことで蒸散能力は変化してしまうのではないか?
植物は葉の裏の方に気孔が多いため、蒸散能力は葉の裏の方が多いはずだという思い込みが実験結果に影響を与えないか。
この影響を防ぐにはワセリンを塗っても蒸散能力には影響を与えないということを何らかの方法で調べる必要がある。
また、同じ蒸散能力がある個体数を多くし、測定誤差を少なくするように平均をとるなどする必要があるのではないだろうか。
理科の問題は実際に実験をしていない人が出題するとこのように、この実験結果からは本当にそのことが言えるのかというのが不明なことが起こってしまう。