コースターでの衝突実験(2013年滋賀)
木片に速さを変えて衝突させる
【実験1】図1のように,小球(質量16.7g)を発射装置で打ち出し、木片に当てて木片の移動距離を測定した。また,速さ測定器で木片に当たる直前の小球の速さを測定した。次に、小球を打ち出す速さを変えて、同様の実験を行った。表1はその結果をまとめたものである。
木片に質量を変えて衝突させる
【実験2】質量36.6g, 68.9gの小球について,実験1と同 様に、小球の速さと木片の移動距離を測定した。図2は、実験1,2の結果をグラフに表したものである。
1 実験1の結果から,小球の速さと運動エネルギーは、どのような関係にあると考えられるか。次 のア~ウから1つ選びなさい。
ア 速さが大きいほど、運動エネルギーは大きい。
イ 速さが大きいほど,運動エネルギーは小さい。
ウ 速さが大きくなっても、運動エネルギーは変わらない。
運動エネルギーの大きさは、質量m、速さvとして、
の関係がある。
質量に比例し、速さの二乗に比例する。
この問いの答えは アになる。
小球の質量と木片の移動距離の関係のグラフ
2 実験1,2の結果をもとに、小球の速さが1.0m/sのときの、小球の質量と木片の移動距離との関 係をグラフに表しなさい。
グラフの横軸の1メモリは2gである。
16.7gは16と18の目盛りよりも左側、その時の移動距離が表1より3.2cm
36.6gは36gと38gの間よりも左側、その時の移動距離は図2より8.0cm
68.9gは68gと70gの間よりも左側、その時の移動距離は図2より17.0cm
この問題は入試問題にしては、グラフに点を打ちにくい質量の値が与えられている。
採点基準は、目分量でどれだけ正確に点を打っているかである。
そして、グラフは、原点を通り、この3点に近い直線になる。
木片の質量も木片とレールの間に働く摩擦力に関する情報も与えられていない。
さらに、小球が持っている運動エネルギーが木片にどれだけ伝わったのかも書かれていない、
小球の質量を大きくした場合、木片との衝突の際に音や木片を変形させるエネルギーで運動エネルギーが失われるかもしれない。
はねかえり係数が与えられていないのでとても乱暴な問題であるが、
高校入試レベルでは、衝突しても力学的エネルギーは保存される
と考えられるので弾性衝突であるとして跳ね返り係数は1である。
そして、小球の持つ運動エネルギーがすべて、木片に伝わったと考える。
高校の物理では、衝突の時は力学的エネルギーの保存の法則は常には成り立たないが、
物体が速度を持つときに持つ運動量は保存するということで運動量保存の法則を使う。
中学では運動量を学習しないので、木片が動き出した時の速さが必要となる。
動き出した時の静止摩擦係数、動いているときの動摩擦係数などがからんでくる。
衝突の問題は中学では、木片がどれだけ移動するかだけであるが高校では複雑になる。
コースターの移動経路
【実験3】図3のように、2本のレール1,2を使った装置を作った。次に,同じ大きさで同じ小球A,Bを準備し,それらをスタート地点から同時に転がし、途中のa~cの各点での速さ と、ゴール地点までの到達時間をそれぞれ測定した。表2,3はその結果をまとめたものである。 なお、レール1,2上のa,b,cは、それぞれスタート地点からの水平距離が等しい点である。
3 実験3の結果について,次の(1), (2)の問いに答えなさい。
(1) 小球Aのスタート地点からゴール地点までの間の平均の速さは何m/sか。書きなさい。ただし、小球Aが転がったレール1の長さは1.53mである。
(2)小球Aが小球Bよりゴール地点に早く到達したのはなぜか。表2をもとに,説明しなさい。
小球Aと小球Bは質量が同じで体積が同じ物体である。
そのため、高さ15cmのところで持つ位置エネルギーは同じである。
しかし、小球Bよりも小球Aの方が、低い位置を通るので、小球Aの方が最下点のb点では運動エネルギーが大きくなる。
このため、速さも大きくなる。その結果、小球Aの方が到達時間が早くなる。
平均の速さを求める
平均の速さ=
=0.90m/s
b点を通過する速さが小球Bに比べて小球Aが大きいため
位置エネルギーと木片の移動距離との関係
【実験4】図3の装置で,最初に, レール1のb点に木片を置き、小球Aをスタート地点から転がし、木片に当てて木片 の移動距離を測定した。次に、レール2のb点に同じ木片 を置き、同様に測定した。表4はその結果をまとめたもの である。
4 実験4の結果,レール1の木片の移動距離が, レール2の木片の移動距離の2倍になった。その 理由を説明しなさい。
位置エネルギーを考えるときは基準となる高さを考える。
b点の高さを基準にすると
レール1は高さ10cmのところにb点があるので、最高点の高さ15cmまでの高低差は5cm
レール2は高さ5cmのところにb点があるので、最高点の高さ15cmまでの高低差は10cm
高さが2倍のとき、位置エネルギーも2倍になるので、b点を通過するときの運動エネルギーも2倍になる。
レール①の小球はレール②よりも2倍の高さから転がり始めるので、持っている位置エネルギーは2倍になるため、b地点での運動エネルギーもレール①はレール②の2倍になるため。
この問題は書きにくいグラフを書く
説明しなさいが2題
と受験生が苦手とするところを出してきている。
ただでなくても物理はよくわかんないという受験生が多いのに、それに拍車をかけるような問題である。
ただし、計算をして解くという問題ではないので力学的エネルギーの保存の法則
位置エネルギーは高さに比例する(質量にも比例する)
運動エネルギーは速さの2乗に比例する(質量にも比例する)
ということが、理解できていれば解ける問題である。
b地点で小球Aの速さが1.12m/s
小球Bの速さが0.79m/sであることから
=1.25
=0.62
で =≒2倍であることから解答しても正解のはずである。
小球Aと小球Bのb点での速さの2乗の比は2:1より、小球Aの方が運動エネルギーが2倍なので木片を動かす距離は2倍になる。(高校レベルの解答)
この力学的エネルギー保存の法則で高校入試でコースターを出題するのはあまりない。
また力学的エネルギーの大きさを求める問題もない。
高校の物理基礎では当たり前のように出てくる基本問題になるのでしっかりと中学の段階でマスターしておきたい。
ポイント
- 木片の移動距離は運動エネルギーが大きくなるほど大きくなる
- 運動エネルギーは質量と速さの二乗に比例する
- 位置エネルギーは質量と高さに比例する
- 位置エネルギーと運動エネルギーを合わせたものを力学的エネルギーといいその量は一定である。