水平面での速さと質量の関係~~ガリレオのピサの斜塔の実験(2016年大分)
スタートは水平面
|1[図1]のように,角度が一定の斜面と水平面をなめらかにつなぎ,水平面で台車を手でおした。手から離れると,台車は一定の速さで水平面を運動し,斜面を減速しながら上った。
[2] 実験の様子を 0.2 秒間隔で発光するストロボスコープを用いて撮影した。
[3] 1, [2]の実験を,台車におもりをのせ,台車の総質量を変えたり,水平面を運動させる速さを 変えたりして、くり返した。その結果,次のことがわかった。 なお,台車の総質量とは,台車とのせたおもりの質量の和である。
[実験からわかったこと]
[A] 水平面での台車の速さが速いほど,台車が斜面を上る最高地点は高くなる。
[B] 台車の総質量を大きくしても,小さくしても,水平面での台車の速さが同じなら,台車が斜面を上る最高地点の高さは変わらない。
(1) 台車が斜面を上っているとき,台車にはたらく斜面にそう力の向きと大きさの説明として適切なものをアー工から1つ選び,記号で書きなさい。
ア斜面にそって上向きにはたらき,斜面を上るにつれてしだいに小さくなる。
イ 斜面にそって上向きにはたらき,一定の大きさを保つ。
ウ 斜面にそって下向きにはたらき,斜面を上るにつれてしだいに小さくなる。
工 斜面にそって下向きにはたらき,一定の大きさを保つ。
台車にかかるのは重力だけである、この力は速さに関係なく質量によって決まる。鉛直下向きの力である。斜面に沿う力の方向は下向きで大きさは一定であるからエを選択する。
運動している方向に力が働いているように思ってしまうが、それは力ではなく、運動量という別の物理量である。
力は運動をしている方向にかかるわけではない。
速さを求める
(2) [図2] は,[2]で撮影した水平面での台車の運動のストロボ写真の一部を図にしたものである。このときの台車の速さは何cm/sか,求めなさい。
ストロボは0.2秒間隔で光る。0.2秒で25cm移動する。
速さ====125cm/s
力学的エネルギー保存の法則
(3) 台車が斜面を上っているとき,台車のもつ位置エネルギーと力学的エネルギーの大きさは,台車が一定の速さで水平面を運動しているときと比べてどのようになるか。適切な組み合わせを,ア~エか ら1つ選び,記号で書きなさい。
力学的エネルギー保存の法則より、水平面での運動エネルギーが斜面の位置エネルギーに変換され、その分、運動エネルギーが小さくなる。
斜面での位置エネルギー+運動エネルギー=水平面での運動エネルギー
位置エネルギーは大きくなり、力学的エネルギーは変わらないからウを選択する。
基準面の速さが同じとき、位置エネルギーは質量と関係がない
(4) [実験からわかったこと」をもとに,花子さんと太郎さんが次のような話をした。1,2の問いに答えなさい。
花子:[A]から,水平面で台車のもつ運動エネルギーが大きいほど,斜面を上って最高地点に達にしたときに台車がもつ位置エネルギーも大きいことがわかるね。
太郎:[B]は,どう考えればよいのかな。同じ高さにある台車のもつ位置エネルギーは台車の総質量とは関係ないと予想してよいのかな。
花子:予想を確かめるために,別の実験を行ったらどうかな。
二人はさらに,次の実験を行った。
4 [図3] のように1で用いた斜面の,ある位置に台車を置き,静かに手を離し,水平面に置いた木片に衝突させる。台車は木片をおし,木片と水平面の間の摩擦力によって,木片と一体となって 静止した。この間,木片が移動した距離を測定した。
5 台車におもりをのせて台車の総質量を変えるが,手を離す位置は4の実験から変えずに,同様の 実験をくり返した。 下の[表]は,その結果をまとめたものである。
1 下線部の太郎さんの予想について,[表]から考えた場合, 正しいといえるか。解答欄の「正しい」 「正しくない」で答えなさい。
また,そのように解答した理由を、「位置エネ ルギー」「台車の総質量」「木片の移動距離」という3つの語句をすべて用いて書きなさい。
質量がちがくても斜面に上がる瞬間の速さが同じならば、最高点の高さは同じになる。
物体の質量をm、重力加速度をg、最高点の高さをh、速さをとする。
水平面 最高点
位置エネルギー+運動エネルギー=位置エネルギー+運動エネルギー
0 + =mgh+ 0
質量は変化しないので
という関係から、高さは速さのみで決まる。
太郎さんの予想
同じ高さの物体の位置エネルギーは質量には関係がない
結果
質量を大きくすると、木片の移動距離も比例して大きくなる。
木片を移動させるのが、物体の運動エネルギーとすると運動エネルギーは質量に比例することになる。
運動エネルギーは位置エネルギーの変化したものだから、運動エネルギーが比例しているということは、位置エネルギーも質量に比例していることになる。
このことから
位置エネルギーは質量に関係がないという予想は「正しくない」
物体の総重量を大きくすると物体の移動距離が大きくなることから、物体の位置エネルギーは質量が大きくなるほど大きくなる。
位置エネルギーの大きさは質量と高さに比例する。
しかし、物体の高さを決めるのは質量ではなく、基準面での速さである。
ガリレオの功績:落体の物理学 | ナショナルジオグラフィック日本版サイトより写真引用
質量の大きさが速さを決めないという。ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔の実験が有名な話である。
「鉄球と木球を同時に高い所から落とすと、同時に着地する」
これは、弟子が後で書いたもので、本当に行われたかどうかはわからない。
1971年 アポロ15号で月に行ったデビット・スコットはハンマーと鳥の羽が同時に落下するのを示している。
重いものが速く落ちるように見えるのは空気抵抗があるため、空気抵抗がない所では同じ速さになる。
質量と速さは関係がないというのを表している。
基準面からの速さが同じとき位置エネルギーは同じになるというのは誤りである。
エネルギーは質量に比例するからである。
質量と速さと運動エネルギー
2 [5]で,台車の総質量が 3.0 kg のときの,水平面で木片に衝突する前の台車の速さと運動エネル ギーの大きさは,台車の総質量が 2.0 kg のときと比べてそれぞれどのようになるか。適切な組み合わせを,ア~エから1つ選び,記号で書きなさい。
質量が3.0kgになるということは、質量が倍になることである。
位置エネルギーは倍になり、運動エネルギーは倍になる。
速さは質量とは関係がないのだから、変わらない。
よって、イを選択する。
速さと質量は関係がない、
軽い乗り物で作ったジェットコースターと重い乗り物で作ったジェットコースターでは速さは変わらない、
同じ高さから物体を落としたとき木片が動くのは、質量の影響で速さが大きくなったためではなく、質量によって運動エネルギーが大きくなったためである。これを理解しているかどうかを確かめる出題である。
し